研究概要 |
本研究の目的は物理的刺激による広範性の疼痛抑制調節効果を検証することである。平成22年度は,健常ボランティアを対象に圧刺激,電気刺激さらに熱刺激を前腕・手に加え,遠隔部の機械的痛覚閾値,熱痛覚閾値を計測し,また全身性の鎮静効果をみるために心拍変動(HRV),唾液αアミラーゼ活性(sAA),脳波解析を行い,現在も継続している。これまでのところ,圧刺激には機械的痛覚閾値が反応しmechanoreceptorへの影響が,また熱刺激には熱痛覚閾値が反応しheat/thermal receptorへの影響が示唆される結果となっている。今後,全身性への影響として自律神経機能や脳機能を合わせてspinal/supraspinalな疼痛抑制機序について検証を進める予定である。さらに,平成23年度実施予定であった慢性頚肩痛有訴者を対象とした研究も始め,圧刺激を頚肩部局所または遠隔の前腕・手の経穴に加え,直後と1週間後に頚肩部の疼痛強度と僧帽筋硬度,さらにHRV, sAA,機能障害度,心理状態を計測し比較検討した。結果,局所と遠隔いずれの経穴への刺激であっても疼痛コンディションは改善し,さらに心拍や副交感神経活動指標(HRVの高周波数帯値)についても局所経穴への刺激によって改善が認められた。 これまで,リハビリテーションでは様々な物理的刺激が疼痛緩和の手段として経験則に用いられてきた経緯があり,また臨床研究においても一義的なものが多かった。本研究では,疼痛強度の評価においてもreceptorの違いを意識し2種類の痛覚閾値検査を実施し,また刺激を加える局所のみならず遠隔部,さらには全身性への影響をみるため自律神経機能や脳波についても調べている。末梢から加える刺激が中枢神経系の疼痛制御機構に及ぼす影響を幅広い視野で解析しようとしている点に本研究の意義があり,その結果の重要性が期待される。
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