研究概要 |
本研究の目的は物理的刺激の広汎性の疼痛抑制調節効果ならびに中枢神経系を含む疼痛抑制機序を検証することである。平成23年度は,健常ボランティアを対象に,侵害的または非侵害的強度の電気刺激,振動刺激,熱(温熱,寒冷)刺激を右前腕に加え,刺激部とその対側,遠隔の右頬部の機械的痛覚閾値,熱痛覚閾値を計測し,また全身性の鎮静効果をみるために心拍変動,前頭前野近傍の脳波(侵害的温熱・寒冷刺激のみ)の解析を行い,現在も継続している。これまでのところ,電気刺激については,非侵害的低周波数刺激(2Hz,無痛強度)で熱痛覚,侵害的高周波数刺激(100Hz,限界強度)で熱・機械痛覚ともに刺激局所でのみ抑制効果が認められた。振動刺激については,低周波数刺激(8.5Hz)および高周波数刺激(114.8Hz)ともに刺激局所でのみ遅順応性に機械痛覚が抑制された。熱刺激については,非侵害的熱刺激(ホットパック)で刺激局所の熱痛覚閾値が低下,侵害的熱刺激(46.5℃温水)と侵害的冷刺激(10.0℃冷水)で遠隔の右頬部の熱痛覚閾値が低下し広汎性疼痛抑制効果が得られた。侵害刺激による痛みの認知・情動反応にともない,前頭前野近傍のβ2波が増加し,特に情動反応に連動した。 これまで,リハビリテーションでは,疹痛緩和の手段として様々な物理的刺激が経験則に用いられてきた経緯があり,また臨床研究においても一義的なものが多かった。本研究では,疼痛強度の評価においてもreceptorの違いを意識し2種類の痛覚閾値検査を実施し,また刺激を加える局所のみならず遠隔部,さらには全身性への影響をみるため自律神経機能や脳波についても調べている。末梢から加える侵害的・非侵害的な多種多様の物理刺激が中枢神経系の疼痛制御機構に及ぼす影響を幅広い視野で解析しようとしている点に本研究の意義があり,その結果の重要性が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さまざまな物理的刺激の疼痛抑制効果と生理学的機序について実験をすすめているが,臨床で経験則に用いられている多種多様な物理的刺激の鎮痛効果を徹底的に検証するために,当初予定していたよりも刺激の種類や様式を大幅に増やし,多くの科学的根拠を構築することができた。一方,まずは増やした刺激の種類と様式で生理学的検証が必須であるため健常ボランティアの対象数を増やしたため,慢性疼痛患者における効果検証には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
非侵害的高周波数(100Hz,無痛強度)または侵害的低周波数(2Hz,限界強度)の電気刺激による効果,振動刺激による熱痛覚閾値変化,非侵害的熱刺激(ホットパック)による遠隔部の熱痛覚閾値など,確認できていない様式・強度の刺激による疼痛抑制効果および計測できていないパラメータ,解析できていない自律神経活動や脳活動について確認し,spinal/supraspinalな疼痛抑制機序について検証を進める予定である。多種多様な刺激による生理学的な検証を推進し,物理療法のエビデンスを構築することを優先する。そのうえで,可能であれば,慢性頚肩痛有訴者ならびに脳卒中後疼痛(肩手痛)患者を対象とし,これまで健常者で行ってきた各刺激(圧,電気,振動,熱)を有痛部局所または遠隔の前腕経穴に加え,直後効果と持続効果を検証する。
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