本研究の目的は物理的刺激の広汎性疼痛抑制調節効果ならびに中枢神経系を含む疼痛抑制機序を検証することである。平成24年度は,(1)平成23年度に引き続き,健常ボランティアを対象に侵害的または非侵害的強度の振動刺激,熱刺激を右前腕に加え,刺激部とその対側,遠隔の左頬部の機械痛覚閾値と熱痛覚閾値および心拍変動を計測,(2)健常ボランティアならびに慢性頚肩痛有訴者を対象に全身,下肢,上肢運動または運動制御,運動イメージ課題を負荷し,運動の影響を受けにくい遠隔の僧帽筋の機械・熱痛覚閾値,組織ヘモグロビン濃度,心拍変動,前頭前野近傍の脳波を解析した。結果,健常ボランティアでは,侵害的(46.5℃温水)のみならず非侵害的な熱刺激(ホットパック),振動刺激(8.5 Hz低周波数)さらに運動によって遠隔部の痛覚閾値が低下し,生理的な自律神経応答が確認され,広汎性疼痛抑制効果が得られた。また,前頭前野近傍のα波の増加する刺激によって疼痛抑制効果が得られた。一方,慢性頚肩痛有訴者では,痛覚閾値の上昇は認めにくく,血液循環動態ならびに自律神経活動の変調を認めた。以上のことから,物理的刺激による広汎性疼痛抑制効果は侵害的のみならず非侵害的負荷であっても誘起され,何らかの中枢神経系を含む疼痛抑制機序を介することが示唆された。しかしながら,慢性疼痛を有する場合,これらの中枢性疼痛調節機序に変調をきたしていることから疼痛抑制が得られにくい可能性が示された。
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