本研究において、ラットのヒラメ筋の筋収縮張力を生体内で測定するために、新しく実験システムを構築した。その実験システムを用いて、本年度は神経-筋接合部の伝達効率が温度によってどのように変化するのかを検討した。 直接刺激および神経刺激を用いてラットヒラメ筋の単収縮張力および強縮張力(100Hz、0.5s)を静止長で測定した。直接刺激による発生張力はヒラメ筋の筋線維すべてが収縮した発生張力とみなすことができる。そこで、神経刺激による発生張力を直接刺激による発生張力で除した値を神経-筋接合部の伝達効率として評価した。張力測定は、22℃、26℃、30℃、34℃、37℃、40℃の6つの温度条件下で行った。 その結果、(1)単収縮張力では、それぞれの温度条件間で有意な差が見られなかった。(2)強縮張力では、それぞれの温度条件においても神経刺激による発生張力が直接刺激よりもより大きくなった。 変温動物の両棲類(トノサマガエル)を用いた先行研究では、神経-筋接合部の伝達効率には温度依存性があり、外気温の変化にとても敏感であることが明らかになった。一方、恒温動物である哺乳類(ラット)を用いて単収縮張力を測定した本研究結果は、神経-筋接合部の伝達効率は温度に影響を受けないことを示していた。ラットでは多少外気温が低下し筋温に影響を及ぼしても、中枢から神経を伝導してきたシグナルは効率よく骨格筋に伝達されることを示唆している。 しかし、直接刺激による強縮張力が、神経刺激のそれよりも小さいことは、直接刺激がすべての筋線維を刺激していないことを示唆している。そのために、温度変化により神経-筋接合部の伝達効率に差が出なかった可能性もある。今後、直接刺激の実験システムの改良を行ってこの疑問を解決し、神経-筋接合部の伝達効率の温度依存性が、動物種に関係なく普遍的な現象であるかどうかを検討していく。
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