平成22年度より、地域在住高齢者における呼吸器疾患未診断、閉塞性換気障害者(いわゆる「隠れCOPD患者」)の2年間の身体機能、身体能力、日常生活動作、生活の質の経過を健常高齢者と比較することにより縦断的に分析、検証した。 分析対象は健常高齢者35名、閉塞性換気障害者6名であった。分析方法は、年齢、性別を共変量とし、認知機能評価、呼吸機能検査、呼吸筋力評価、肢体筋力評価(上肢筋力、下肢筋力、体幹筋力、足趾把持力)、バランス評価(片足立位時間)、歩行能力評価(最速歩行速度、10m障害物歩行、Timed Up and Go test、6分間歩行テスト)、主観的生活観評価および活動能力指標評価を比較した。 結果、2年間の変化において、健常高齢者と閉塞性換気障害者には一秒量の減少に有意差を認めなかった。また、予測比肺活量は閉塞群において、健常群より有意に減少していたが、呼吸筋力、肢体筋力、バランス能力、歩行能力、主観的生活観、活動能力には有意差を認めなかった。 我々は、「隠れCOPD患者は健常高齢者と比較して、一秒量の減少が著明で、それに伴って身体機能、身体能力、日常生活動作、生活の質において差が生じてくるのでは」との仮説を立て、検証したが、2年間の縦断的経過では仮説を立証するには至らなかった。このような緩やかな経過がCOPD早期発見を遅延させる要因の一つとなっているものと推測する。また、全ての「隠れCOPD患者」が重症化するわけではなく、特異的な要因がCOPDの病態を進行させる可能性が示唆された。 その他、本研究の成果として、COPD患者早期発見の取り組み過程における課題が浮き彫りとなった。呼吸機能検査で異常が認められたとしても医療機関に受診する対象の数が非常に少ないこと、それら対象の経過を把握するためにデータベースを作成する必要があることなどがわかった。
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