研究概要 |
【目的】これまでの一連の研究において股関節疾患患者の筋の質的機能向上(type II線維の選択的トレーニング)には,(1)単関節運動よりも多関節運動,(2)直線的運動よりも回旋運動がより効果的であることが示された.しかし,運動(movement)レベルでなくその上位階層である歩行などの姿勢・動作(motion)レベルでの制御について考えた場合,後1つ重要な要素がある.それは(3)床反力ベクトルの方向である.多関節運動下では,ごのベクトルの方向により二関節筋と単関節筋の動員比率が変化する.そこで本研究では,(1)股関節疾患患者の歩行時床反力ベクトルと二関節筋の動員比率の関連性について動作解析装置を用いて検討する.本研究成果は現状に於いて二関節筋に過剰に依存した股関節疾患患者の姿勢制御の新たな治療戦略に寄与するものである. 【本年度実績】 本年度は大学内で健常者を対象とした予備実験を行った.身体体節に貼付した33個の反射マーカーと三次元動作解析装置,6枚の床反力計を用い,通常歩行と腕組による上肢の腕振り制限歩行の比較を行った.歩行動作時立脚相における膝関節外反モーメント(以下M)は二峰性の特徴を示す.そこで,Mの特徴点として最初の峰をM1,次の峰をM2と定義した.そして,1歩行周期データの中からM1・M2及びM1・M2時の膝関節伸展モーメント・膝関節角度・体軸回旋角度・床反力角度・腕振り角度を抽出した.有意水準は1%未満とした.結果,腕振り制限歩行において,M1では膝関節外反モーメントの減少と膝関節伸展モーメントの増加を有意に認め,腕振り制限による膝への影響が示された.以上のことから,歩行動作時の腕振りに対する評価・治療の重要性が示唆された.本研究については,科学誌(Journal of physical therapy of science)で受理され24年度掲載予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定では研究2年目に障害評価を終了し,3年目では治療介入効果の検証を実施予定であった.しかし,昨年,健常者を対象とした予備研究が予定以上に進展せず,臨床現場での患者データの計測まで行えなかった.その理由としては,床反力計PCの不具合と,デジタルビデオカメラによる3次元動作解析のサンプリング設定とEMGのサンプリング設定の同期を取るシステム構築に時間を要したため.現在,床反力計PCの不具合は解消して研究遂行に問題は生じていない.
|
今後の研究の推進方策 |
予備実験は終了し研究デザインはほぼ,固まったため本年,8月~11月にかけて臨床現場に研究機材一式を移動し,データ測定を実施する予定.現在,臨床現場との具体的日程の調整中.計測項目は,運動力学データとして(1)安静立位時からの前後左右方向へのステッピング動作時,及び歩行動作時の床反カベクトル,関節モーメント,関節パワーの計測.運動学的データとして,骨盤動揺性の計測(上前腸骨棘,後上腸骨棘に添付した三次元反射マーカーの移動量,移動速度の計測).また,その時の大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋のEMGを計測し,積分EMG解析及びWT周波数解析を用いた量的・質的活動評価(離散WTを用いたフィルタリング機能,EMGパワースペクトルを3帯域に分類し評価)を導入し,より詳細な廃用性萎縮評価と床反力ベクトルとの関係について検討する)を行う.また,昨年度の部分的予備実験による研究成果について論文投稿を積極的に行う.
|