【目的】これまでの一連の研究において股関節疾患患者の筋の質的機能向上(typeII線維の選択的トレーニング)には,①単関節運動よりも多関節運動,②直線的運動よりも回旋運動がより効果的であることが示された.しかし,運動(movement)レベルでなくその上位階層である歩行などの姿勢・動作(motion)レベルでの制御について考えた場合,後1つ重要な要素がある.それは③床反力ベクトルの方向である.多関節運動下では,このベクトルの方向により二関節筋と単関節筋の動員比率が変化する.そこで本研究では,①股関節疾患患者の歩行時床反力ベクトルと二関節筋の動員比率の関連性について動作解析装置を用いて検討する.本研究成果は現状に於いて二関節筋に過剰に依存した股関節疾患患者の姿勢制御の新たな治療戦略に寄与するものである. 【本年度実績】 本年度は臨床現場でのデータ計測を予定していたが実現できなかった.しかし,大学内で変形性関節症患者のシングルケース計測を実施した.測項目は,運動力学データとして①安静立位時からの前後左右方向へのステッピング動作時,及び歩行動作時の床反力ベクトル,関節モーメント,関節パワーの計測.運動学的データとして,骨盤動揺性の計測(上前腸骨棘,後上腸骨棘に添付した三次元反射マーカーの移動量,移動速度の計測).また,その時の大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋のEMGを計測し,積分EMG解析及びWT周波数解析を用いた量的・質的活動評価(離散WTを用いたフィルタリング機能,EMGパワースペクトルを3帯域に分類し評価)を導入し,床反力ベクトルとの関係について検討した.
|