せき損センターに損傷急性期より入院加療した患者の、経時的な筋萎縮の計測データを大腿周囲径ならびに下腿周囲径を計測して集積している。これまでに35名の患者について入院時、損傷後72時間、2週間、4週間のデータが蓄積されているが、マウス筋萎縮モデル(脊髄離断モデル)で認められたような急速な筋萎縮(損傷後72時間で31%の筋萎縮)は認められていない。特に完全麻痺患者でも大腿周囲径は数センチメートル程度の減少しか認められなかったため、周囲径の計測よりはエコー下に大腿四頭筋断面積によりデータを集積した方が適切ではないかと考えているが、引き続き損傷後6ヶ月までデータを蓄積する予定である。不全麻痺患者の場合は大腿周囲径、下腿周囲径ともに減少の程度はわずかであり、麻痺の程度や回復に相関することが明らかとなった。 一方、基礎研究に於いては連携研究者である岡田、大川らの成果により、クロマチンリモデリング因子Chd2が筋分化のマスター遺伝子であるMyoDと供作用して筋分化に必須であることを解明した。特に、Chd2はヒストンバリアントであるH3.3を予め取り込むことにより、筋分化が開始する以前に分化関連遺伝子群をマーキングしており、このようなエピジェネティックなメカニズムにより筋分化が制御されていることを明らかにした。実際、筋萎縮マウスへの幹細胞移植に於いて、Chd2の機能を阻害した幹細胞移植では細胞は分化も生着も認められないのに対し、Chd2を強制発現させた細胞移植に於いては良好な細胞の生着と分化を認めた。これらの結果は、細胞移植による廃用性筋萎縮の治療や予防に資する成果であると考えている。
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