本研究は,高齢者が物理的な障害物がないところで転倒する前兆や原因を解明するため,注意力減少の要因と,日常歩行中の3次元時空間歩行パラメータ(立脚/遊脚時間,歩幅,歩行速度,歩隔,爪先と床との距離,爪先角度,左右の足の位置関係など)との因果関係を調査する。そして,高齢者を対象とした実験を行い,転倒発生を予測する方法を提案することを目的とする。 平成22年度では,考え事を行っているときの歩き方を詳細に把握するため,右足爪先に赤外線センサを取り付け,右足遊脚時に左足との距離と時刻を測定することで,左右の足の歩隔も含めた両足爪先の3次元歩行パラメータ測定システムを開発した。 平成23年度では,簡単な計算を行うスマートフォン専用アプリを利用し,アプリを実施しながら歩行を行ったときの解答速度と歩行パラメータを求める実験を行った。理系学部,文系学部の健康な男女を対象とした実験の結果,二重課題によって歩幅が減少して歩行周期が延長し,歩行速度が低下することを確認した。また,文系被験者の方が理系被験者よりも歩行パラメータの変化の割合が大きくなったことから,歩行パラメータの変化を定量的に評価するためには,課題の内容が重要であることが確認された。 平成24年度では,健常高齢者を対象に難易度の異なる2種類の想起問題を与える二重課題歩行実験を行い,課題の難易度と歩行パラメータの変化の割合を導出し,さらに転倒経験の有無との関連性を比較することで,転倒を予測する方法ついて検討した。通常歩行時と,想起問題実施時の歩行パラメータを測定し,ワーキングメモリに対する歩行能力と回答能力の占有率の関係を求めた。その結果,転倒経験有りの人は,転倒経験無しの人よりも歩行能力の占有率が有意に低下した。これより,二重課題実施時の歩行能力の占有率を利用することで,将来的な転倒の危険性を予測することが可能になると考える。
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