研究概要 |
本研究は,これまでにない高い汎用性を持ちながら従来の高性能補聴器の機能を飛躍的に拡張した両耳補聴システムの構築を目指している。加齢による聴力低下を補う高性能補聴器は今だに高価で,本質的な需要があるにも関わらずその普及は進んでいない。本研究は,眼鏡程度の手軽さと,これまでにない耐ハウリング性能,特定方向信号の選択的補聴による高い補聴効果を併せ持った「ユニバーサル高性能両耳補聴システム」の構築を目指し,その実現のための基盤技術確立のための基礎的研究を行う。 本年度は,フレーム処理に伴うミュージカルノイズの低減と,補聴処理にともなる群遅延を20ms程度に削減するための手法,さらに前後誤判断による指向性制御の劣化の解決法について検討を進めた。まず,ミュージカルノイズの低減については,周波数領域両耳聴モデルによる分離信号の定量的評価について発表した論文を基礎して,複数の評価尺度を用いノイズ低減の指標を検討した。特に,前後誤判断による指向性制御性能の劣化を解決するためニューラルネットワークを利用した分離手法を提案し,問題解決のための糸口が見つかった。次ぎに,周波数両耳聴モデルにおけるフレーム処理にともなう群遅延を,通常の電話系で遅延が知覚できないとされる20ms程度に抑えることを目標に,フレーム処理パラメータ等を調整し,DSPによる実装では遅延を概ね目標値まで短縮できる可能性があることが明らかとなった。また並行して,これまでに開発したアルゴリズムを広く普及しているポータブルデバイスiPhoneに実装し,デモシステムを構築し,「ユニバーサル高性能両耳補聴システム」のプロトタイプとして評価できる環境を実現した。また手軽な装用を可能にするため,従来のインナーイヤータイプのイヤホンのみならず,骨伝導アクチュエータを利用した両耳補聴システムについても検討を開始した。
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