研究概要 |
本研究は,これまでにない高い汎用性を持ちながら従来の高性能補聴器の機能を飛躍的に拡張した両耳補聴システムの構築を目指している。加齢による聴力低下を補う高性能補聴器は高価で,本質的な需要があるにも関わらずその普及は進んでいない。本研究は,眼鏡程度の手軽さと,これまでにない耐ハウリング性能,特定方向信号の選択的補聴による高い補聴効果を併せ持った「ユニバーサル高性能両耳補聴システム」の構築を目指し,その実現のための基盤技術確立のための基礎的研究を行う。 本年度は,両耳補聴システムにより特定の方向の音を選択的に強調する際に問題となる前後誤判断の解決に注力して研究を進めた。人間は,両耳情報を用いて頭部を固定した場合でも,ある程度の前後判断は可能であるが,従来のマイクロホンアレー,特に2入力のマイクロホンアレーでは,マイクロホンを結ぶ軸に対して,同心円状に指向特性を形成することしかできない。本研究で用いている周波数領域両耳聴モデルにおいては,頭部前方に限定すれば音源の方向角・仰角を推定可能であり,その情報に基づいた指向性制御も実現できていたが,前後誤判断の解消は実現できていなかった。この問題を,矢状面座標系を用いて両耳間位相差・レベル差をニューラルネットワークで学習させ,音源方向を前後左右の4領域に分割することで,解決した。シミュレーションでの性能評価では,音声・広帯域雑音いずれの場合も,正面に対して後方では20dB以上の抑制量が得られた。先行音効果のモデル化についても研究を進めており,初期到来音を補足しその情報から到来方向を固定した形で音源分離を行う形で基本アルゴリズムを構成した。シミュレーションによる評価で所期の性能が得られることは確認されたが,音源の移動への対応する形にアルゴリズム拡張が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の先行音効果のモデル化については,基本アルゴリズム実装は終えたが,音源移動への対応についてアルゴリズムの拡張が必要である。一方,先行音効果による音源方向の推定と深くかかわる音源方向の前後誤推定については,アルゴリズムがほぼ完成しており,演算量の低減によりポータブルデバイスへの実装も可能な水準に到達できている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には,申請書段階での計画に沿った形で研究が進んでおり,次年度は前後誤推定処理アルゴリズムを組み込んだ形でポータブルデバイスへの実装を試みる。また,先行音効果のモデル化においても,音源移動への対応を進めることでアルゴリズムの完成を目指す。
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