研究概要 |
本研究は,積雪寒冷地域に生活する高齢者の歩容に関する生理的多型性に着目し,摩擦係数の低い路面環境への適応能を下肢と上肢の協調運動から明らかにすることを目的としている.研究初年度である今年度は基礎実験充実の年とし,まず,健常成人に対して歩容実験を繰り返すことで安全な実験方法や環境を確立することを最優先の課題とした.その後,実験の対象を段階的に高齢者へ拡大することとした.本研究を遂行するにあたり,今年度前半では有線式のEMGシステムを利用して実験を行ってきた.しかしながら,有線式EMGシステムは被験者に対する拘束性が強く,本研究の軸となる「移動を伴う実験」,「路面の摩擦係数を変化させる実験」,「体幹バランスを一時的に崩すような実験」の実施が困難であった.今年度後半,科学研究費補助金により完全にワイヤレスな状態にてEMG信号,及び,3軸の加速度信号の同時計測が可能となるシステムを導入した,新しい実験システムを利用して予備実験を繰り返し行った結果,新たな実験プロトコルを確立することができた.一方,6月にデンマークで行われた国際会議に出席し,本研究テーマに隣接する分野の研究サーベイを行った.その一つの成果として,歩容研究を進める中で外的環境への適応過程をより深く理解するためには,単に歩容のみの実験を行うだけでは無く,例えば歩容とは逆に,体幹や下肢の可動領域を固定したペダリング運動を運動習熟度別の観点から比較検討することが有用であるという仮説を立て検証を行った.得られた結果は9月に山形県で行われた生体情報計測セミナーにて報告した.なお,3月,4月の二度の強い地震に伴い実験装置を制御するPCに不具合が生じたため,今後,実験環境の再整備を急ぐと共に,今年度予定していたEMGデータや加速度データの周波数解析は来年度の課題としたい.
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