研究概要 |
本研究では,重症心身障害児(者)(重症児と略す)の在宅ケア対策の一つとして,重症児専門施設で提供される医療管理・生活介護・教育支援など各種のサービスを可能な限り居宅でも受けられること目指し,ICT(情報通信技術)を活用した支援機器システムを開発し,これが効果的に活用される包括的な情報ネットワーク基盤を構築して,その実証運用と評価を行うことを目的とした。 本年度は,まず,健康状態が不安定な在宅重症児を対象とし,呼吸器機能のバイタル信号(呼吸音および肺音)を電子的に聴取する計測システムを開発し,これら低周波数信号の記録を確認できた。また,3つの情報ネットワークモデルを設定して,テレビ電話を中心としたICTシステムの実証運用を開始した。テレビ電話にはNTT製フレッツフォンVP1000を使用し,重症児の居宅と重症児施設あるいは特別支援学校の間を高速ひかり電話網/ADSL電話網で接続した。情報ネットワークモデルは,(1)家族の職場からの見守り支援,(2)重症児施設によるケアホームでの地域生活支援,(3)特別支援学校からの教育支援の3つのモデルを設定し,併せて重症児施設による医療支援も行った。現在も実証運用中であるが,見守りモデルでは,患者の体調を把握するうえで大きな助けとなることが示され,家族に安心感をもたらした。地域生活モデルでは,ケアホーム利用者の健康管理や日常生活を支えるのみならず,利用希望者に対してもケアホーム生活の抵抗感を低減し,入居の促進につながることが期待された。教育モデルでは,居宅での訪問教育と教室での学習を一体化できる可能性が示唆された。また,こうした課題学習だけでなく,居宅生徒に対して全く行われてこなかった朝の会や終わりの会などの学校行事への参加がテレビ電話を通して可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,その目的を達成するために具体的な課題を3つ設定した:(1)テレビ電話システムの選定と技術的課題の検討,(2)バイタル通信機器の開発,(3)情報ネットワーク基盤の構築と実証運用。課題(1)は当初の計画を達成できた。課題(2)は電子聴診器による呼吸音・肺音の計測システムの開発を完了し,その伝送方法の検討を進めている。課題(3)では3種類の情報ネットワークモデルでの実証運用を開始し,評価データの蓄積を行い,その有用性や課題が明らかになり始めた。
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今後の研究の推進方策 |
ICTシステムの実証運用を継続し,少なくとも1年以上の長期間にわたるデータを蓄積し,確実に実用化を図るために有用性の評価と課題の分析と対策を進めていく予定である。バイタル通信機器の開発では,呼吸音・肺音を伝送するシステムの開発を推進する。さらに,近年,インターネットを利用したテレビ電話(Skypeなど)やテレビ会議システム(Spreed, Live On など)が普及し始め,その性能も著しく進歩してきた。これらは経費的に極めて有望であるが,パソコンを利用する技術を必要とする。新しいICTツールとして今後の動向に注目し,導入を検討したい。
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