電動車いすの入力方式として、ジョイスティック、ハンドル、ハンドリムなどがあり、近年ではBMIの立場から電動車いすの高機能化の研究が進められている。しかし、電動車いすの操作性は、それらの操作性や解析速度のみに依存するのではなく、むしろ車いすを取り巻く走行環境を正確に認識することで、電動車いすの高機能化を目指すことが重要であると考えられる。そこで本研究では電動車いすにも適用可能な安価で高性能な走行環境の認識法とその制御系設計法の確立を目的としている。走行環境の認識法として昨年度は、傾斜角センサを2個使用した相互補償法による動的推定法を提案し、傾斜角と加速度情報を同時に計測できることを確認した。また、その推定値を利用した適応制御法について議論し、それらの有効性をシミュレーションによって確認した。そこで、本年度は実際に電動車いすシステムを構築することで、動的推定法および適応制御法を実環境における実機実験によって検証した。その結果、車いすの上下動(路面の凸凹)の影響からシミュレーション結果よりも精度が悪いものの、0.5度以内に走行環境の傾斜を動的推定できることを示した。適応制御法については推定された傾斜角と理想的な(平地走行時の)車いすモデルを導入することで、車いすの動特性(総重量と粘性減衰係数)と、走行環境の詳しい状況(転がり抵抗係数)を認識することができた。この結果から、車いす利用者は悪路走行時においても平地感覚で車いすを操作できることを示唆した。最後に本手法の最大の利点は、走行環境が認識できることで、車いす利用者のみならず介護者に対しても、この制御系を適用できる点にある。そこで、介護者モードつまり、後ろから介護者が車いすを押すことで操作を行うケースについても実験を行った。その結果、介護者は坂道であっても平地と同様の感覚で車いすを押すことができ、その負担を軽減できることを示した。
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