歩行や走運動のような律動的な移動運動時における上・下肢の活動パターンの制御には脊髄にあるパターン発信器(CPG)が重要な役割を果たしていることが明らかにされている。近年、このCPGはヒトにおいても存在し、上・下肢による律動運動の制御に重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、上・下肢のCPG間の相互作用については不明な点が多い。平成24年度の研究目的は、上肢と下肢の律動運動の制御を担うCPG間の干渉作用がトレーニングによってどのように修飾を受けるか明らかにすることである。 被験者は神経学的疾患のない健康な成人男性10名であった。被験者は、約4 週間にわたり週4 回程度の頻度で上・下肢ペダリング運動の干渉効果に関するトレーニングを行った。上・下肢ペダリング運動の干渉効果とは、最初に上肢ペダリング運動を定常的に行わせ、次いで下肢のペダリング運動を開始させると、上肢のペダリング回転速度が急速に低下する現象である。被験者に、この運動課題を4週間にわたって行わせ、上・下肢緩衝効果がトレーニング前後でどのように変化したかについて分析を行った。 その結果、トレーニング前では、上肢ペダリングの定常運動は下肢ペダリング運動によって影響を受け、その開始に伴ってペダリング速度が有意に低下した。しかしながら、この効果は1週間程度のトレーニングによって修飾を受け、速度低下は有意に漸減した。また、このトレーニング効果は、継続的に筋力トレーニングを行っている鍛錬者と非鍛錬者間で相違は見られなかった。 これらの結果は、上・下肢に独立して存在すると考えられるCPG間の連結が、トレーニング効果を受けて低減した可能性が考えられる。一方、この結果は脊髄より上位の中枢神経系による学習効果の可能性であることも否定できない。
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