運動の伝承の場では、発生に関わるキネステーゼアナロゴンの抽出と移植が重要な問題となる。本研究では、アナロゴン移植の妥当性の検討を行い、どのようなアナロゴンが、どのような学習者にとって、どの段階で移植が可能なのかということを体系化し、運動実践の場に還元、提供していくことが本研究の目的である。 最終年である本年度は、前年度まで取り組んできた障がい者におけるの動きの発生について、障がい者自身の自己運動として捉えることの重要性を示す例証を示し、特別支援講座で成果を提供し、さらに人間の運動発生を主たる目的とする伝承研究会で刊行する「伝承」に発表した。また、障がいを持つ子どもと同様のことが,跳び箱が跳べなくなってしまった学習者に起こった事例について、モナドコツを核とした運動ゲシュタルトの理解をキネステーゼアナロゴンを移植することにより、発生へと持ち込んだ例証をスポーツ教育学会で発表した。 これらの成果により、人間の運動が伝承していくためには、動く人間の主体そのものに迫り、入り込み、理解し、さらにそう動きたいという衝動をどう捉えるかということを基底に据えながら、その運動の動ける素となるモナドコツとその地平にあるキネステーゼアナロゴンを捉えること、そしてその移植作業としてのキネステーゼアナロゴンの運動者への導入は、運動者自身の動感世界に切り込むための周界と主体との関係やなじみの地平或いは原感情・原動感といったものも含めた人間の動感世界での伝承理論として成立する可能性を見出すことが出来た。
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