研究概要 |
本研究では,創造的な身体表現活動における"表現の多様性"を育むために,活動の指導者やファシリテーターによる人的支援に加えて,個々の活動者の表現のイメージと動きの生成や連動を促し,なおかつ活動者相互の表現を緩やかに統合することで,新たな表現を創り合うための感性的な表現メディアの構成と,それを活用した実際の表現活動の在り方について検討することを目的としている.平成22年度には,こうした表現メディアであるシャドウメディアからどんな表現が行われるのかを,舞踊熟練者2名を対象に,3次元的な運動計測と主観調査から実験的に検証した.具体的にはそのままの「身体の影」をメディアとして表現を創る場合と,シャドウメディア2種類(ひも状・ポリゴン状)をメディアとする場合とにわけ,創作実験を行った.結果として,2種類のシャドウメディアからは,影の変容の質を受けた特徴的な表現が行われることが明らかとなった.また,身体の影も含め,3種類の表現素材いずれにおいても,影との出会いや気づきの過程に,ある順序性のあることが示唆され,今後の研究に向けて興味深い継続課題となった. 加えて,表現メディアを用いたインクルーシブな集団での表現活動が,複数回にわたってどのように変化していくのかを,シャドウメディアを用いた表現作品づくりによって捉えることを試みた.主に表現活動に参加した人々の自由記述等を通して事例的に検討した結果,不安や戸惑いからこれまでの表現を超えようとする意欲が生まれ,自己と他者,身体とメディアの多様なつながりの中から,新たな表現を発見する過程が明らかとなった.
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