本研究では,球技において国際レベルで活躍した一流競技選手が持つ実践知の獲得過程を,質的研究法を用いて明らかにしてきた.研究最終年度にあたる平成24年度においては,研究成果を技術・戦術的に発達段階にあるジュニア期における球技選手の効果的な指導に役立つ知見としてまとめ,コーチングの実践現場に以下の4点を提言した. (1)球技における個人戦術力は,技術力が身体化された<コツ>身体知と戦術的思考力が身体化された<カン>身体知の統一的な行為であるために,技術力と戦術的思考力のそれぞれを要素還元的な考え方に基づいて絶縁的に養成し,後からそれらを統合させるという方法は適切ではない. (2)球技における技術力を効果的に養成するためには,ゲーム状況を解決する十分な動作の獲得とその動作の自動化を目指す中で,「対峙する相手選手と相互主体的関係を結び,間主観的に対話できるように」という上位の目的を設定するとよい. (3)球技における戦術的思考力を効果的に養成するためには,相手や味方選手との対応力や適応力の向上を目指す中で,「対峙する相手選手の行為に適切に対応するリアクションの行為を可能にする動作を習熟させた上で」という条件を設定するとよい. (4)個人戦術力の養成では,意識して習得・修正した動作をゲームで前意識的に発揮し,前意識的に発揮した動作を省察し,練習で意識的に修正するといった繰り返しが効果的である. なお,研究成果の一部は,スポーツ運動学研究 第25号,ハンドボールリサーチ 第1巻などで発表した.
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