本研究の目的は、コミュニティ・オブ・プラクティスに焦点を当て、地域内に散在するこのような集団がスポーツ組織における知識の創発と資源化にどのように機能するのか、またそのコミュニティ間の有機的な関係や組織進化がスポーツ組織の自律性にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることにある。その結果、いかのようなことが明らかになった。 1. 多くの非営利組織では、アイディアや組織内で抱かれる想いを事業に変えるための時間と人が不足していることを問題視していた。また専従職員が存在せず、本業以外の余剰の時間やエネルギーを費やしてしか活動できないような組織では、活動が低調になれば、関係性が希薄になり、組織から徐々にメンバーが脱退していくため、人的資源を喪失するという悪循環をたどっているようであった。組織やコミュニティ・オブ・プラクティスを支える「熱意」の欠落や、報われない状態が知識の資源化を阻害する様子がうかがえた。 2. コミュニティ・オブ・プラクティスの出現と機能化は、地域に内在する共通の問題点が個々人や各々の非営利組織を1つのベクトルへと向かわせることが明らかになったものの、多様な社会的ミッションを遂行しようとする個々人や各々の組織の「距離感」や「同質性」、つまり、事業領域の類似性や心理的に近すぎる距離が遠慮、躊躇、牽制のような影響をもたらし、知識の資源化やコミュニティ・オブ・プラクティスの進化に結びつきにくいという様子がうかがえた。 3. 社会問題の解決を「心の契約」によって活動にコミットしている人々の活動は、組織やコミュニティ・オブ・プラクティスでの成果を感じ取る前に、情緒的に消耗しやすい傾向にある。そのため、参画する組織や個々人の自律性やスキルにかかわる「心理的エンパワーメント」をいかに働かせるかが、地域内での共同事業やコミュニティ・オブ・プラクティスの進化に関係するものと考えられる。
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