研究概要 |
二年目はトレーニング負荷構成,並びに,科学的測定とトレーニング・試合の一体化に関する文献資料の分析を行った。初年度に収集した,旧ドイツ民主共和国ライプチヒ体育大学のスポーツ指導者養成課程,スポーツ方法学講座に所属していた教授陣の教授資格論文,適性診断の科学サポート研究の博士論文を中心に,翻訳と分析を行った。更に,ジュニア期のトレーニング構成については,旧ドイツ民主共和国で,サポート研究の中心を担っていたロスト氏等による,2009年に公刊した「ジュニアトレーニングハンドブック」を翻訳し,分析している。科学的な測定データのトレーニングや試合への活用がどのように行われたのか,という点については,フェンシングやカヌー競技,陸上競技の投擲種目を中心に分析を行った。フェンシングにおいては,試合分析におけるゲーム理論の導入によって,最適な戦術決定に資する戦略的な試合分析の事例が報告されている。カヌー競技においては,実験室でのメスボートシステム開発と,フィールドでのトレーニング実験とを組み合わせて,選手本人のトレーニング負荷意識の精密化と負荷によるパフォーマンス向上との関連性を,科学的に明示するサポートするシステムが構築された。更に,オリンピック競技で使用されるカヌースラロームコースとおなじものを作り上げ,そこでのシミュレーショントレーニングを行い,試合での勝利パフォーマンスに直接つながるピーキングの手法が確立された。陸上競技では,投擲種目を中心にした,選手の個性に対応できる試合動作に近似したトレーニングマシンの開発を行うと共に,試合期と休息期におけるトレーニング負荷構成法の具体的な経過研究を行い,パフォーマンス向上の周期構成の基礎理論を確立した。ジュニアトレーニングでは,トップパフォーマンス構造から演繹された各年齢段階ごとのトレーニング課題を明確にするとともに,ジュニア期における試合を,シニアの試合の単なるミニチュア版ではなく,ジュニア期のトレーニング課題に対応したものに変更する大胆なジュニア試合論も提案されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
収集資料の翻訳分析に時間を要し,論文作成に手間取っている。初年度とあわせて,翻訳ずみの資料を三巻の資料集(1500ページ)としてまとめるにとどまり,学会発表,論文作成の段階まで至っていない。とりわけ,旧ドイツ民主共和国におけるトレーニング科学の術語を我が国で詳細に分析した先例がなく,そのため,これまでにない先導的なトレーニング科学術語に対応する翻訳語の確定に困難を感じている。我が国での用語の体系に対応させることと,新しく提案されている用語との齟齬を示す作業が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には,競技種目ごとに,基礎,育成,移行,トップの各段階における,トレーニング負荷の構成規準値を,トレーニング要綱を参考に詳細に捉え,ジュニア期のトレーニング負荷構成を「陸上競技」,「カヌー競技」,「フェンシング」,「レスリング」にしぼってまとめる。トップレベルのメスプラッツトレーニングについては,「カヌー競技」について分析する。球技については,試合分析とパフォーマンス構造に関連する教授資格論文を抄訳し,サッカー,ハンドボールにおける,試合分析データとトレーニング負荷構成との関連性を詳細に分析する。
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