研究概要 |
登山は典型的なエアロビクスであり,運動強度的に見るとウオーキングとジョギングの中間に位置する.また運動時間は,他のエアロビクスと比べて長いのが特徴である.従って登山は,健康の維持増進にとって,ウオーキングに馴れた人が次の段階の選択肢として行うのによい運動といえる.実際に,現代の日本では,中高年を中心に登山ブームが続いている.しかしその反面,登山中の事故も年々増加しており,深刻な問題となっている.そこで本研究では,登山事故を防止し,安全,快適,健康的な登山を行うための方法論を開発するための基礎データを,フィールド研究を中心として得ることを目的とした、本年度は,実際の山で,身体にどのような負担がどの程度かかっているかについて検討した.対象とした山は,日本人にとって最もなじみの深い富士山とした.対象者は,登山経験の少ない高齢者であり,2泊3日で富士登山を行った.その結果,行動時・生活時ともに,身体には様々な大きな負担がかかっていることが明らかとなった.たとえば歩行中の動脈血酸素飽和度は,山頂付近では60%台にまで低下していた.歩行中の心拍数は,推定最高心拍数の80%を超えていることが多かった.歩行中に身体が受ける衝撃力は,登りよりも下りでより大きな値を示し,下りで転ぶ事故が多いという現代の登山事故の特徴を裏付けるような結果であった.安静時の最高・最低血圧も,山頂での滞在時には高血圧の領域にまで上昇していた.睡眠中の動脈血酸素飽和度は,60%台と著しく低下していた.富士山は毎夏,約40万人が登るという典型的な大衆登山の山である.しかし以上のように,身体にかかる負担度は非常に大きいことが明らかとなり,このような負担を自覚した登山を行わないと,安全性が確保できない可能性が考えられた
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