研究概要 |
運動のもたらす生体への効果を検討する際には,摂取カロリーの影響をも加味し「動く」,「食べる」という生活者としての視点をもって解析することに真の意義がある.本研究は,習慣的な運動が酸化ストレスに対する耐性を向上させるか,またそれらに対してカロリー制限(CR)がどのような影響を及ぼすかを検討することを目的とする. 初年度である平成22年度には,運動刺激に対する適応反応が成立するのに十分な運動期間を探索するための,基礎データ収集を行った.被験動物として7週齢Wistar系雄ラットを用い,4,8,および12週間の習慣的運動を行わせ,体重変化,摂餌量変化を正確に追跡評価した.また,肝臓サンプルを対象に核,およびミトコンドリアDNAの抽出分離を行い,それぞれのDNA酸化損傷レベルを8-bydroxy deoxyguanosine(8-OHdG)含有量の推移から検討した. 12週間の体重変化は,コントロール群と運動群の間で有意な差はなかった.同様に給餌量についても,期間の主効果が認められたものの(P<0.01),群間に有意な差は観察されなかった.したがって,本研究の運動負荷は,体重,および給餌量に有意な影響を与えない強度で,極めて低い負荷であったと考えられる.しかしながら,肝臓の核,およびミトコンドリアDNAの8-OHdGレベルは運動によって有意に変動し,特に8週間ではミトコンドリアDNAの酸化的損傷が,運動群でコントロール群と比べて有意に高くなるといった変化が観察された.すなわち,極めて低い強度の運動負荷であっても,DNA修復系酵素(OGG 1,MTH 1)発現レベルが変動する可能性が考えられる. 2年目以降は,これらの予備的検討結果を踏まえ,習慣的な運動にCRを組み合わせた場合の交互作用の有無を,酸化的DNA損傷修復システムの動態に焦点を当てて検証する.
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