研究概要 |
平成22年度の結果から,12週間の低強度の運動負荷であっても,DNA修復酵素(OGG1,MTH1)発現レベルが変動する可能性が示された.平成23-24年度には,同一運動へのカロリー制限の併用が,酸化ストレス,または酸化ストレス刺激に対するポジティブな生体適応反応に及ぼす影響を,DNA修復酵素の発現動態などから検証することを目的とした.まず平成23年度は,運動に伴う酸化ストレスへの適応反応現象として観察されると考えられる,海馬における神経栄養因子(BDNF)の増大が,カロリー制限によって修飾されるか否かを検証した. 7週齢Wistar系雄ラット(n=28)を自由摂餌&非運動群,自由摂餌&運動群,カロリー制限&非運動群,カロリー制限&運動群の4群に分類した.実験期間は12週間とし,運動群には週5日の走運動を行わせた.運動負荷(30分間)は走速度10m/min,斜度5°の低強度運動(約50-55%VO2max相当)とし,カロリー制限は自由摂餌群が示した摂餌量の60%とした.試料は最終運動終了48時間後に採取した. 全身性の抗酸化・酸化マーカーとして血清抗酸化力,酸化度,さらに海馬の総抗酸化能,脂質過酸化マーカー4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)量,BDNF量を測定した.その結果,メカニズムの詳細は不明であるが,運動とカロリー制限の単独で増大した海馬内酸化ストレスは,併用によってその上昇が抑制され,酸化ストレス度と海馬BDNF発現量との間に有意な正の相関が確認された.酸化ストレスがトリガーとなって海馬BDNF発現がアップレギュレートされたと考えられる.これらのことから運動とカロリー制限の同時介入は,酸化ストレスに対するDNA修復機構の適応反応にネガティブに作用する可能性が考えられ,平成24年度に順次解析を進めていく必要性が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期的な運動にカロリー制限を加えた場合,生体にもたらされるポジティブな適応がどのように影響されるかを検証することを目的とした.DNA修復酵素の適応を評価することを最終目的としているが,今年度は脳において,両者の相互作用によって正の適応が減弱される可能性を示唆した.部位特異性を考慮しつつ,肝臓など他部位における応答を検証する最終段階に達している.
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今後の研究の推進方策 |
運動やカロリー制限が生体内における一種の刺激となって,ポジティブな適応現象が惹起される「ホルミシス効果」を想定した研究はさらに詳細に検討されるべきである.従来から指摘される「適度な刺激」を記述することが予防医学的見地から非常に重要であり,本研究課題はその一側面を支える仮説を明らかにしようとしている.そのため人への還元を視野に入れ,運動やカロリー制限の具体的方法に関して,さらに多角的に検証を加えていくことが求められる.
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