平成24年度は12週間の低強度運動負荷による,肝臓におけるDNA修復酵素(OGG1,MTH1)発現レベルとDNA損傷マーカーの挙動に関して,カロリー制限(CR)が及ぼす影響を評価する最終年度とした. 7週齢Wistar系雄ラット(n=28)を自由摂餌&非運動群,自由摂餌&運動群,CR&非運動群,CR&運動群の4群に分類した.実験期間は12 週間とし,運動群には週5日の走運動を行わせた.運動負荷(30分間)は走速度10 m/min,斜度5°の低強度運動(約 50-55 % VO2max相当)とし,CRは自由摂餌群が示した摂餌量の60%とした.対象試料は肝臓とし,最終運動終了48時間後に採取した. DNAの酸化マーカーとしての8-OHdG量を肝臓の核とミトコンドリアに分離して評価したところ,核8-OHdG量がCRで増大することが示されたが,運動を併用するとその変化が打ち消された.またミトコンドリア8-OHdG量には「運動」の主効果が確認され,12週間の定期的な低強度運動によってミトコンドリアDNAの酸化損傷が減弱されることが確認された.ヒトをはじめとした動物のミトコンドリアDNAの酸化損傷が,各種疾病の直接的・間接的原因になると指摘されており,長期的な低強度運動の予防医学的意義の一端が示されたと考えられる.しかしながら代表的DNA修復酵素であるOGG1とMTH1のmRNA発現レベルは,総DNA当たりで比較すると運動やCR の影響をほとんど受けておらず,DNA修復制御機構の解釈の難しさを示唆する結果となった.一方,長寿遺伝子と考えられるSIRT1は運動の影響を受けずに,CRによってのみ発現亢進が観察された.したがって少なくとも肝臓レベルでは,DNA損傷を抑制しつつ,長寿遺伝子を賦活するために,低強度運動とCRを組み合わせることの有用性を指摘できる可能性がある.
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