22年度は、脊髄損傷による発汗機能レベルを特定した後、暑熱環境適応下での運動中の体温調節反応、浸透圧、ホルモン及び免疫の動態に関する検討である。被験者は、脊髄損傷男子競技者の車椅子マラソン競技者8名及び健康な大学男子長距離競技者の5名を対象とした。人工気象室内条件は、30℃(暑熱環境)、60%RHで60分間安静を保った後、arm cranking ergometerを用いた運動負荷を60%Vo2maxで60分間実施した。測定項目は、発汗部位、発汗量、全身4ヶ所の皮膚温、胸部と背部の皮膚血流量、心拍数、酸素摂取量、鼓膜温、乳酸、ヘマトクリット値、カテコールアミン、好中球の活性酸素産生能、血清総抗酸化能(TAA)を、安静時、運動30分経過時、運動終了直後、回復30分経過時、回復60分経過時にそれぞれ実施した。 温熱性発汗は、視床下部に存在する発汗中枢が興奮することにより起こる。汗腺に向かう発汗神経は第一胸椎(T1)~第三腰椎(L3)より出発し、傍脊髄神経節を介して分節的に全身の汗腺に分布する。脊髄損傷により発汗神経が傷害されると障害部位に対応した分節レベルの領域に無汗部位がみられる。本脊髄損傷被験者の発汗障害は胸部・背部等に認められ、8名の平均発汗量より多かった4名を脊髄損傷競技者N群、少なかった4名を脊髄損傷競技者L群とした。運動中の体温調節反応、内分泌系、免疫系において、脊髄損傷競技者N群、脊髄損傷競技者L群、大学競技者の間に差異が認められた。体温調節の感受性や熱産生、内分泌および免疫系より総合的に検討すると、大学競技者、次いで脊髄損傷競技者L群、脊髄損傷競技者N群の順に反応が鈍る傾向であった。このことからも脊髄損傷競技者の運動時の身体冷却の必要性が示唆され、その冷却方法が今後の課題である。
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