研究概要 |
疲労にはスポーツや労働による肉体疲労、心労やストレスによる精神疲労がある。国民就労人口の2/3が疲労しており(1999年厚労省疲労研究班)、疲労研究は国民のQOLに貢献できる社会的意義が大きい研究課題である。本研究は肉体及び精神疲労に対する疲労マーカーを測定することによって疲労を定性及び定量することを目的とし、更に脳内のどの遺伝子の発現が疲労に関与するか網羅的遺伝子の発現の解析も模索している。 平成22~23年度は実験動物(ラット)を用い、尿中疲労マーカー候補として過酸化水素(H2O2)と共に尿中還元物質(抗酸化物質)のそれぞれ異なる日内変動を観察した。その結果、尿中H2O2は肉体及び精神疲労のマーカーになり得る可能性が示唆された(大城、国際医学新聞Medical Tribune, 2010年10月21日vol.43,No.42,p15掲載)。H2O2は抗酸化物質により消去されるので、抗酸化物質の影響を受けない酸化ストレスマーカーとしてDNA酸化物質8-OHdGの測定を試みたが、精神疲労マーカーとして間脳における早期発現遺伝子c-fos mRNAをRT-PCR法によって測定した結果と共に、有意な差は見いだせなかった(2011年国際神経化学会Oshiroら、2011年日本神経化学会Iwasawaら)。 平成24年度においてはc-fosのプローブを再設計し、ラット間脳の遺伝子発現をreal time PCR法によって測定し、精神ストレスとして水浸負荷4~6日で7~13倍の発現の増加が観察された。これを踏まえて精神ストレスのマーカーとしてc-fos及びc-fos以外のマーカータンパク質を探索する目的で、ラット間脳のRNA品質の高いRNA標品を抽出して次世代シーケンサー(RNA seq)による網羅的な遺伝子の発現解析を試みており、今後ヒトのストレスマーカーの探索にも役立てたい。
|