【背景】高齢登山者の登山中の心血管系疾患発病の報告が散見される。国内3000m級の登山をした場合の心血管系疾患発病リスクを、採血結果から検討することを目的とする。【対象と方法】日本山岳会岐阜支部メンバーで、8月下旬に行われた奥穂高登山に参加した60歳以上の登山者11名(男性6名、女性5名、平均年齢68.5±5.1歳)を対象とした。2泊3日の行程であり、初日は上高地から入山し、横尾山荘にて宿泊、二日目は涸沢を経由して穂高岳山荘にて宿泊、最終日は白出沢を新穂高へ下山した。採血検査は初日には上高地(日本山岳会登山研修センター)、二日目は穂高岳山荘、最終日は新穂高登山指導センターの3か所で行った。採血検査項目は、電解質などの一般検査のほか凝固線溶系検査であるα2プラスミンインヒビター・プラスミン複合体(PIC)、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体(TAT)、Dダイマー(DD)、心筋マーカーのトロポニンT、炎症マーカーの高感度CRP、心血管系ホルモンのANP、BNPであった。採血後は遠心分離が必要なものは速やかに行い、冷蔵保存し検査に提出した。結果】血液検査結果ではCK値、ミオグロビン値、高感度CRP値が大きく上昇した。血清電解質は大きな変化はみられなかった。ナトリウム、総タンパク、血糖値から推定した血清浸透圧は若干上昇していた。ANPとBNPはともに上昇したが、PIC、TAT、DDと心筋トロポニンTには変化はみられなかった。しかし、検査結果には大きな個人差もみられた。【結語】骨格筋には大きな炎症や損傷が生じていると考えられる。また、心臓関連モルモン値の上昇より心臓に対しても大きな負荷が加わっていると考えられるが、凝固線溶系の更新や心筋マーカーの上昇はみられず、心血管系疾患発症の予兆はみられなかった。
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