【はじめに】 、2泊3日の山小屋泊の登山における血清電解質の変化について、特に不整脈の原因となりうる低カリウム血症について検討した。【対象と方法】平成24年8月下旬に10名(男性7名、女性3名、年齢37~76歳)の奥穂高登山者を対象とした。初日は上高地から入山して横尾山荘(泊)、二日目は涸沢経由で穂高岳山荘(泊)、最終日は奥穂高岳(標高3190m)、岳沢経由で上高地という行程であった。採血は、初日は上高地にて、二日目は穂高岳山荘、最終日は上高地にて行った。検討項目は、血清電解質(Na K Cl)に加えて、心房性ナトリウム利尿ペプチド(HANP)、Nターミナル脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、クレアチンキナーゼ(CK)であり、血漿浸透圧は計算式で算出した。採血後は速やかに遠心分離し、冷蔵保存した。【結果】血清ナトリウム(基準値136-147 mEq/L)は141.0±1.3→143.2±2.7→144.0±2.1、血清カリウム( 基準値3.6-5.0 mEq/L)は4.2±0.2→4.2±0.3→3.7±0.2、HANP(基準値43.0 pg/mL以下)は26.5±10.5→28.7±14.1→41.0±15.2、NT-proBNP(基準値125pg/mL以下)は91.3±63.4→279.3±167.9→388.8±197.2と変化した。【まとめ】2泊3日の夏期山行において、血清中のナトリウムとクロールはむしろ増加し、カリウムが低下した。カリウムは筋肉の活動に重要な電解質であり、骨格筋の脱力、疲労などの原因となりうる。また、高度の低カリウム血症は不整脈の発生など心筋にも影響を及ぼすことも考えられる。夏場の登山においてはナトリウムだけでなく、カリウムについても十分注意が必要であると考えられた。
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