本研究ではサルコペニア(加齢性筋肉減少症)発症機構の一端を解明するため、骨格筋の負の制御因子であるグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)に注目した。GSK-3βはAkt/PKBによりリン酸化され、その活性が抑制される。これまでの研究によって、老齢マウス骨格筋のGSK-3βのリン酸化レベルの低下が明らかになり、その活性の制御機構に何らかの調節障害が起きていると考えられた。 平成24年度は、GSK-3βの活性を阻害した時のサテライト細胞のin vitroでの分化能力について検討した。成獣および老齢マウスの腓腹筋から単核細胞を単離し、細胞の接着性を利用した方法でサテライト細胞を分離した。高濃度牛胎児血清を含む増殖培地でこれらの細胞を培養したところ、老齢マウス由来のサテライト細胞は成獣マウスのサテライト細胞よりも増殖能力が低かった。そこで、両マウス由来の細胞数が分化誘導をかける前にほぼ同じになるように播種して、増殖培地で培養した後、分化誘導したところ、GSK-3βのリン酸化レベルは老齢マウス由来のサテライト細胞でわずかに低下していたものの、両者に明確な分化能力の差は認められなかった。さらに同じ条件でGSK-3βの阻害剤であるリチウムを分化培地に添加して分化能力を調べた。GSK-3βの阻害剤により成獣および老齢マウス由来のサテライト細胞の分化はさらに促進され、その分化促進効果は両者間で同程度であった。これらの結果から、加齢に伴うGSK-3βの活性化とサテライト細胞の分化能力の関係についてはさらなる検討が必要であるが、GSK-3βの活性を阻害剤等で制御することによってサルコペニアの症状を軽減させる可能性のあることが示唆された。
|