低酸素環境での運動が酸化ストレスにおよぼす効果の検証として、昨年に引き続き、富士山五合目山頂往復によるフィールド実験をおこなった。被験者は高齢の非鍛錬者3名とし、高齢の登山ガイド(鍛錬者)と比較した。 酸化ストレス度の指標として、血中ヒドロペルオキシド濃度を、d-ROMs法によって定量した。また、乳酸/ピルビン酸比、NTproBNP、エリスロポエチン(EPO)、尿中8-OHdG、免疫学的見地から唾液中のIgAを測定し、酸化ストレスを多面的に評価するデータを収集した。 電子スピン共鳴法によって定量した血漿のスーパーオキサイドラジカル生成量は、一般高齢者で平地-山頂において1.02から0.73と有意に低下(p<0.01)し、山頂-登山後では0.73から1.00と有意な上昇(p<0.01)を示したが、鍛練高齢者では有意な変動が認められなかった。他方、血清ヒドロペルオキシド濃度、8-OHdG/クレアチニン比、d-ROMsおよび酸化LDL濃度は、群間ならびにすべての測定地点で有意な変動を示さなかった。なお、血漿乳酸/ピルビン酸濃度比とヒドロキシラジカル生成量の間には、有意な相関が認められた(r=-0.72、p<0.05)。すなわち、redoxs statusが酸性側にある方がヒドロキシラジカルの生成が低下していることが示された。以上、鍛練度のいかんに関わらず酸化ストレスの種々パラメータに異常な変動は認められず、通常の冨士登山は、酸化ストレス障害をきたすような破綻を生じさせるものではないと考えられた。他方、低酸素刺激に対する感受性(EPO)ならびに、酸化ストレスの起点であるラジカルの生成量は鍛練度の差によって大きな違いが示されており、抗酸化応答のメカニズムに興味が持たれた。
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