目的および方法:登山は、低強度ながら持続的な有酸素運動であり、環境要因として、紫外線、温度差、低圧など酸化ストレスを上昇させる可能性のある因子を複合的に有している。ラジカル消去能は、加齢の影響により低下すると考えられていることから、「高所登山における血中ヒドロキシラジカル生成量は若年者の方が低いか否か」を中心に、登山時において本学の学生と一般高齢者について、加齢による影響ならびに抗酸化剤摂取の有用性を明らかにすることを目的とした。なおすべての実験は、本学の「ヒトを対象とした実験に関する倫理委員会」の承認を得て行われた。 結果および考察:ヒドロキシラジカル生成量は、学生では、登山中常にヒドロキシラジカルが低値を示した一方、高齢者では、登頂後に低下を示したものの、山頂翌日・夕方、下山後では登山前とほぼ同等であり、登頂後から山頂翌朝・夕方、及び下山後にはラジカル生成量の有意な増加を示した(p<0.05)。組織のredox状態を示す血漿乳酸/ピルビン酸濃度比は、高齢者では下山後においてより酸化ストレスを生じやすい体内環境にあることが示された(p<0.01)。登頂後における尿中8-OHdGの増加は、抗酸化剤-群22.88 ng/mg CRE(尿中クレアチニン補正値)に対し抗酸化剤+群14.80 ng/mg CRE、山頂滞在後の減少は抗酸化剤-群20.10 ng/mg CREに対し抗酸化剤+群10.15 ng/mg CREと抗酸化剤摂取の方が有意に低値を示したことから(p<0.05)、抗酸化剤の摂取が、酸化ストレスの低減に有効であると考えられた。なお、以前の測定では抗酸化剤を朝夕2回服用したが効果が認められず、本実験でタブレット状の抗酸化剤を頻回(常時)摂取させたところ、抗酸化剤の有意な効果を認めた。これは、登山という運動形態に適した方法で摂取すべきことを示すものと考えられた。
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