生涯に渡る運動習慣が骨格筋の代謝機能に及ぼす影響について動物(ラット:Fisher 344)を用いて検討を行った。8週齢で購入したラットを運動群と非運動群に分け,両群とも同じ環境で2年間飼育した。なお,食餌と水は自由摂取とし,制限は行わなかった。飼育期間中,運動群には極めて軽い歩行運動を週に2~3回実施した。歩行運動は小動物用トレッドミルを用いて水平(平地歩行)あるいは降坂歩行のいずれかを行った。その結果,運動群の体重は概ね15ヶ月齢まで増加し,その後徐々に減少する傾向を示していて,体重はいずれの月齢に於いても非運動群と差異はなく,長期間の運動による影響は見られなかった。また,下腿(後肢)筋群には軽度な筋の萎縮がみられたが,運動群と非運動群の間に著しい差異はなかった。筋組織においては,ミトコンドリアの脱共役蛋白質(UCP3)が運動群で低下しており,その傾向はとりわけ速筋で著しく,持久的運動の影響が示された。ミトコンドリアの抗酸化酵素(MnSOD)も同様に運動群の筋組織に於いて低下する傾向を示しており,本運動課題による組織酸化ストレスの軽減が推測された。これらの結果は降坂歩行においても水平歩行と同様の傾向にあった。降坂歩行群では,速筋に於いて組織の代謝亢進が認められ,伸張性運動による速筋線維の選択的な活動の影響が考えられた。以上の結果より,ほぼ動物の生涯におよぶ長期間の低強度運動は,動物の正常な発達に影響を及ぼすことなく,加齢に伴う組織の酸化ストレスを軽減し,筋代謝の機能低下を抑制し得るものであることが示された。特に降坂歩行が速筋の組織代謝に影響することは,加齢に伴う速筋線維の減少による筋機能の低下に対する抑止効果の可能性を示唆するものとなった。
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