研究概要 |
本研究では、脳卒中の新規治療戦略の開発という観点から、中枢神経系に影響を及ぼす中枢-末梢臓器間連関に着目して、脳虚血ストレス負荷が中枢-末梢臓器間連関に及ぼす影響、ならびにそれが神経障害の発現に及ぼす影響についてその解明を試みた。これまでに本申請者は、脳虚血ストレス負荷時において肝臓におけるインスリン抵抗性を介した一過性の耐糖能異常が発症し、この血糖値上昇が、学習・記憶障害などの予後の悪化に関与することを明らかとしてきた(J. Pharmacol. Sci., 2011)。そこで本申請者は、脳虚血ストレス負荷後の血糖値変化を制御できる内因性生理活性ペプチドを探索することを目的として、近年中枢末梢臓器間連関により、視床下部を介して末梢組織での糖代謝を制御することが報告された神経ペプチド orexin-A の関与に着目した。 本年度において、脳虚血ストレス負荷後早期において、orexin-A 産生部位である視床下部外側野における orexin-A の発現量が偽手術群に比較して有意に減少していた。この条件下において、orexin-A の視床下部内局所投与によって、肝臓におけるインスリンシグナル系の賦活化による脳虚血後の血糖値上昇が抑制されることで、神経障害の発現抑制に寄与する知見を得た (J. Pharmacol. Exp. Ther., 2013)。さらに、脳虚血ストレス負荷後の耐糖能異常および神経障害発現に対する SGLT の影響を検討するために、SGLT の阻害剤である phlorizin を用いて検討したところ、脳虚血ストレス負荷後の耐糖能異常に対し、phlorizin 脳室内投与は、何ら影響を及ぼさなかった。一方、脳虚血ストレス負荷後の梗塞巣形成、および行動障害発現は、phlorizin 脳室内投与により有意に抑制された (Brain Res., 2012)。
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