研究概要 |
糖尿病における虚血部位での血管再生能低下には、低酸素環境での幹細胞機能障害が関与するとされるが、詳細な分子機構は未解明であった。まず、H22年度の研究では、マウス骨髄由来間葉系幹細胞(MSCs)への高濃度グルコース刺激が、PKC活性化や酸化ストレスの増大を介して、低酸素環境での転写因子HIF-1alphaの発現誘導や血管新生因子VEGFおよびPDGFの発現・産生を抑制していることを見出した。また、H23年度は、1) 高濃度グルコース刺激によるMSCsでの酸化ストレス増大が、NADPH oxidase gp91phoxやミトコンドリア complex I, complex IIIの活性化を介していること、2) 高濃度グルコース刺激によるプロテアゾームの活性増強が、低酸素環境でのMSCsのHIF-1alphaの分解促進につながり、血管新生因子の発現・産生が抑制されることを明らかにした。最終年度のH24年度は、ペプチドが結合した7-amino-4-methylcoumarin (AMC)がプロテアゾームによりペプチド解離が起きる性質を用いて、MSCsのプロテアゾームの活性アッセイを行った。その結果、低酸素環境でのMSCsのプロテアゾーム活性は、通常酸素環境に比して有意に低下するものの、グルコース濃度を高めていくと活性が回復していくことが明らかになった。また、高濃度グルコース刺激により低酸素環境でのMSCsで発現変動がみられる遺伝子の網羅的解析を行ったが、これまで明らかになったHIF-1alpha, VEGF, PDGF, gp91phox以外に著しい発現変動を示す遺伝子の存在を確認できなかった。糖尿病患者の幹細胞による血管再生治療において、プロテアゾーム活性の調節が新たな治療改善につながる可能性も示唆された。
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