衣類などの洗浄に用いられる洗剤は、界面活性剤を主成分とし繊維、汚れなどの界面に吸着して、浸透・乳化・分散・再付着防止作用などの機能を発現している。従前では、界面活性剤の吸着モデルは、基質表面に親水基が吸着しているとされているが、水中に親油期を露出するため熱力学的不安定状態をとり合理的とは言えない。本研究では合理的な界面活性剤吸着形態の解明を目的として、赤外線分光法、水晶振動子(QCM)法を用いた基質表面への吸着過程観察を行った。その結果、基質表面の性状の差が界面活性剤分子の吸着過程に支配的であることがわかった。すなわち、基質表面が親水性であるとき、界面活性剤は吸着量が極めて少なく、臨界ミセル濃度(cmc)を超えるとミセル(界面活性剤分子集合体)の状態で表面に「やわらかく(=可逆的に)」集積している。また、親油性(疎水性)の基質表面には、界面活性剤は単分子層を形成するように吸着していることがわかった。この表面に界面活性剤は親油基を向けていると思われるが、検証が困難に付き現在検証法を模索している。cmcを超えた濃度においては表面に対して「しっかりと(=不可逆的に)」吸着していることがわかった。これらの新規な吸着モデルは界面活性剤水溶液の機能について矛盾がなくかつ熱力学的にも合理的である。 また、衣類の柔軟仕上げ剤として使用されている界面活性剤(二本鎖型陽イオン界面活性剤)についても、基質表面への吸着について検討を試みた。二本鎖型活性剤は水中に難溶で親油基どうしを向けた「脂質二分子膜」がカプセル状に閉じたベシクルとして水中に分散している。このベシクルが繊維などの基質表面に吸着して、脱水・乾燥行程でカプセル構造がつぶれて扁平な円盤と変形する。QCM法から吸着量を求めたところ、基質の全表面の十数%程度しか被覆しておらず、吸着状態と機能発現との間についてのさらなる検証が必要となった。
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