結晶性の固体の融点は特有な一定値を示し、重要な物質定数の1つである。市販のグラニュ糖(スクロース結晶)の純度は99.9%以上と試薬並みであり、日常的には品質に差があるという認識なく使用されている。しかし現実には、グラニュ糖には融点の異なるものがある。砂糖は加熱熔融時の着色状況や熔融状況に差があるものがあり、その差異は、結晶構造の違いに起因していると考えられる。「砂糖の調理特性に影響する新因子」として操作性や食味の違いが生じる機序を明らかにし、これらの現象の原因を探ることが本研究の目的である。このことにより、我々の食生活および食品業界の品質管理に役立つデータを得ることができると考えられる。 融点の異なるグラニュ糖は、異なる加熱過程を経て崩壊、熔融する。結晶の粒の大きさが異なるだけで示差走査熱量分析の結果が異なることは通常では考えられないことであるが、実際に、粉砕により生じた粒度の違いがDSC分析の結果に違いをもたらすこと、市販グラニュ糖製品を篩分したものにおいてもDSC分析結果が異なることを確認した。 通常の分子構造解析に使用されるX線回折等の手法ではこれらのスクロース結晶の微細な構造の違いを解析できなかったが、放射光を利用する方法が有効であるという新知見が得られたため、それを検証し、方法に取り入れるための検討を優先的に行った。分子の電子状態について検討を行い、スクロース分子の内部での結合の強さに差異があるかどうか、分子内部の結合の切れやすさに差異があるかどうかについても検討して現象の機序解明を模索している。
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