研究概要 |
前年度,鶏肉より筋原線維を調製し,糖としてマルトースを選び,ランダムセントロイド最適化法を用いて,温度(40-70℃)・相対湿度(25-45%)・反応時間(24-48h)・筋原線維とマルトースの重量比(1:2-8)を条件として選び,電子スピン共鳴(ESR)測定時の試料溶液への溶解度を指標として,最も抗酸化能を発揮する糖化筋原線維調製条件を検索した。その結果,温度64.9℃・相対湿度40.7%・反応時間36.2h・筋原線維とマルトースの重量比1:5.03の時,スーパーオキサイドラジカルに対する抗酸化能の指標であるsuperoxide anion radical scavenging activity(SOSA)が541±74 units of superoxide dismutase(SOD)/g of proteinを示す糖化筋原線維の調製に成功した。この値は,抗酸化物質であるポリフェノールを多く持つ乾燥デラウエアと同程度の値であった。 平成23年度は,ペプシンを用いて,この糖化筋原線維を部分分解し,抗酸化能を測定することで,この糖化筋原線維の抗酸化能に果たすタンパク質の役割を調べた。その結果,軽くペプシンで消化すると,溶解度は31.5%から58.5%に上昇したが,SOSAは半減した。このことは,タンパク質の形はともかく,一次構造かまたは特定のペプチド配列が,マルトース修飾鶏筋原線維の抗酸化能を発揮するのに寄与していることを示唆していた。また,このマルトース修飾鶏筋原線維は,90℃の加熱によりゲルを形成し,加熱時間(~240分)に依存してしっかりとしたゲルを形成した。これは,同じ加熱条件下で形成させたnaive鶏筋原線維ゲルよりもしっかりとしたゲルであった。SDS-PAGE法により,加熱中のタンパク質の変化を追ったところ,加熱後期ではSS結合以外の共有結合による架橋を形成していることが判明した。さらに,90℃で120分加熱することでえられたnaive鶏筋原線維ゲルと糖修飾鶏筋原線維ゲルをクライオ走査電子顕微鏡観察により比較すると,前者に比べて後者の方が構造体の発達が認められた。このことが,よりしっかりとしたゲルを形成した理由と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ランダムセントロイド最適化法を用いて,鶏筋原線維とマルトースをメイラード反応により反応させ,低イオン強度溶液への溶解性を失うことなく,最も強い抗酸化能を発揮できうる糖化鶏筋原線維を得る条件を突き止めることができた。また,この抗酸化能の発現に,筋原線維タンパク質の形はともかくも,一次構造かまたは特定のペプチド配列が,寄与していることを示唆できた。また,得られた糖化鶏筋原線維のゲル形成能を検討したところ,形成能を保持していること,また,そのゲル形成性が,nativeな筋原線維よりも,良いことを明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
得られた糖化筋原線維が良質なゲル形成性を保持していることは,認められた。さらに,ゲルとなっても抗酸化能を保持していることが判明すれば,タンパク質系ゲル状食品の有望な素材となるばかりでなく,保存に際して,抗酸化添加物を加えずとも,貯蔵できる加工食品の開発が,可能となる。今後,この点に付き検討する。また,マルトースを多糖類・少糖類に代え,ランダムセントロイド最適化法を用いることで,低イオン強度溶液へのさらなる溶解性を獲得しながら,さらに強力な抗酸化能を発現する糖化筋原線維の調製が可能かどうか検討する。
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