研究概要 |
調理法のうち「煮る」調理では,煮汁により食材を比較的緩やかかつ長時間にわたり加熱するため,煮汁の温度・濃度分布が個々の食材にどのような影響を及ぼすかを知ることが重要である.本研究ではこのような問題を解析するため,容器内での食材の分布と個々の食材をそれぞれスケールの異なるポーラスメディア(多孔質媒質)と仮定し,その中での煮汁の熱流動を調べている.本年度は,容器内及び具材内部での温度・濃度分布を解析的に調べた.解析では,具材を含む鍋容器中での流速や温度分布をポーラスメディア中での流体方程式と熱輸送方程式を3次元軸対称の仮定の下で数値的に解き,具材の平均径が熱対流に及ぼす影響を調べた.さらに,温度場の平均量に関する1次元方程式を導出し,実験結果を参考にしてパラメータ設定を行い,具材の温度・濃度・硬さの予測を行った.その結果以下のことが明らかになった:(1)煮汁と具材の体積比(ボイド率)を一定とし,鍋上下間での温度差を与えた場合,容器内での対流による熱伝達はレイリー数とダルシー数の積が10^4以上で急激に大きくなることがわかった.その結果,熱効率の良い具材の平均径と上下面の温度差の関係を決定することができ,平均具材径が小さいほど温度差を大きくする必要がある.(2)鍋下面で一定熱流量を加え上面で温度差に比例する放熱や蒸発があると仮定した場合,具材が大きいほど,鍋内での場所による温度差は小さい.このことは,具材が大きいほど熱対流による容器内での温度の均一化が起こっていることを示しており,容器内部での平均温度を用いた解析が可能であることを示唆する.(3)平均温度に関する1次元モデルを定式化し,この数値解から煮汁温度の時間変化に対する具材内部での温度変化や具材の硬さ変化を調べた.具材が軟化するためには具材内部の局所的な温度がある一定値を超える必要があることから,具材が均一に軟化するための加熱時間と具材径の関係を明らかにした.一方,煮汁濃度を一定とした場合,具材内部への浸透時間は具材内部温度変化にはあまり影響を受けず,十分時間がたてば煮汁濃度はほぼ同じになることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
「煮る」調理では煮汁を熱対流により効率良く加熱することが重要であり,地球重力場では浮力がその役割を果たす.しかし,将来の宇宙環境においては重力が微少であることが予想され浮力による効果は期待できない.そこで本研究では,温度差により表面張力が異なるマランゴニー効果に注目する.この効果は重力の有無とは関係なく,自由界面があればよい.この効果を積極的に用い,大掛かりな装置を必要としない効率のよい加熱方法についての研究を行う.
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