本研究は、個人の感性・嗜好に係わる脳内情報を、NIRS(Near Infra- Red Spectroscopy)信号にもとづく脳血流変化量で検出する方法について検討したものである。種々の予備実験を経て、今年度は以下の実験で得られたデータについて詳細な解析を行って、若干の知見を得ることができた。すなわち、8名の被験者に外部刺激としてコンビニエンスストアーで販売されているスィーツの画像を与え、被験者が食べたいと思って見ているときの脳血流変化と、そうではないときの脳血流変化を比較して、その差分を調べるために、光トポグラフィーETG-4000(日立メディコ)を用いて前頭前野部位における酸素化ヘモグロビンの変化量を測定した。その結果、被験者ごとにその応答は異なるものの、嗜好の違いがNIRS信号に反映されていることが示された。そこで、被験者ごとにそれぞれ統計学的な嗜好判別モデルを作成し、その妥当性を検証したところ、被験者個人の嗜好をNIRS信号にもとづいて予測判別できる可能性が示された。最も正答率の高かった被験者AとGは、画像提示後6.1-7.0秒間の脳血流変化量にもとづいた判別で、このときの正答率は73.7%(19種類の画像のうち、15種類の画像の嗜好を正しく判別)であった。これらの結果を活用すれば、視覚判断をともなう嗜好評価などにおいて、被験者から非明示的な応答抽出が可能となり、マーケティング手法のひとつとしての応用なども期待される。今後は実証データのさらなる蓄積とともに、予測判別の精度の向上が求められる。
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