ポリフェノールを始めとする健康に役立つ成分には苦味を呈するものが多々あります。幼少期の早い段階から苦味を持つ食品を食べられるようになれば、食の幅が広くなり、抗酸化性物質をはじめとする多種の食品成分を摂り入れることができ、健康維持にも役立つことが期待されます。本研究では、幼少期や離乳期、胎生期に苦味に常時触れることにより苦味に対する嫌悪感を和らげることが可能かどうかを調べることを目的としています。22年度は、胎生期に効率よく苦味を効果的に経験させるための手法を検討しました。羊水中に苦味溶液を注入する方法として、当初は超音波エコーによる注入を計画しておりましたが、子宮内の胎児を包む個々の袋(羊膜)の大きさが小さい上、数も多いため、エコーでの確認は不可能でした。そこで、開腹して直接注入する方法を模索いたしました。.出生予定4日前の羊膜には30Gの注射針を用いることにより、各羊膜に0.1mLずつ溶液を注入することが可能でした。水溶性の苦味物質安息香酸デナトニウムを注入した場合は、0.2mM以上の濃度を注入した場合は出生率が半分程度になりましたが、0.05mM以下の濃度ではほぼすべて出生していました。これらの濃度は、出生後の通常マウスが苦味を感じるのに十分な濃度であることも確認しました。他の苦味物質、PROP(プロピルチオウラシル)、シクロヘキシミドについても、それぞれ0.2mg/mL、0.0004mg/mLの注入が出生に影響を与えないことがわかりました。胎生期での苦味経験を1週間以上させるためには、さらに若い段階での注入が必要となってきます。次年度は注入技術向上を進めつつ、これらの苦味に対する嫌悪感低減が、出生後のマウスで認められるかどうかを解析するべく行動学実験系を構築する予定です。
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