幼少期に苦味に対する忌避が少なくなれば、食経験範囲の拡大や機能性の高い食品の積極的摂取につながることが期待できる。苦味嫌悪を軽減する手法として、胎児期に苦味を経験させる手法を試みた。実験動物にはラット、苦味にはキニーネ塩酸塩および安息香酸デナトニウムを用いた。胎児ラットを包む羊膜内の羊水中に苦味溶液を直接注入する前処理と、母ラットの給水瓶に苦味溶液入れ、母体を介して苦味を経験させる前処理を施したのち、生まれたきたマウスに対し、苦味溶液と水との二瓶選択試験を実施した。その結果、いずれの前処理を施したマウスにおいても、苦味溶液に対する嗜好や忌避減少は認められず、その大きさは未処理ラットのものと同程度であった。このことは、妊娠中の母親の食事が仔の味嗜好(忌避)形成へ影響しにくいことを示している。 次に、甘味、うま味、塩味添加による苦味感の低減効果を検討した。マウスを用いてリック試験を行った結果、スクロース、スクラロース、サッカリン、グルタミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム添加によって苦味感低減効果が濃度依存的に起こることが確認された。さらに、この低減効果が中枢のどの部分で起こるのかを検討するために、オピオイド受容体阻害剤あるいはドーパミン受容体阻害剤を予め処理したマウスを用いて、苦味低減効果を比較したところ、ドーパミン受容体阻害剤であるハロペリドールを投与したマウスにおいて、効果が認められた。このことは、幼少期において、ドーパミン脳内報酬系を鍛えることによって効率的に味混和による苦味低減が可能になることを示唆している。
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