【目的】Siは地殻中にニ番目に多いSiであるが人に関する調査・研究は少なく、本研究はアジア地域住民のSiのバックグランド・データの構築を目的に飲食物、生体試料中Si測定および微量元素を含むミネラル類や栄養摂取量との関係について検討した。本年度は日中韓園児の爪中濃度、食事からの摂取量を中心に測定を行った。【方法】爪は陰膳実測法による食事調査時に毛髪等と共に各家庭の協力で採取された。爪は水酸化テトラメチルアンモニウム溶液で溶解処理し、ICP-MS法で26元素およびICP-AES法でSi、Srを測定した。爪検体は中国8幼稚園104名、韓国2幼稚園32名による。【結果】(1)栄養元素濃度:各元素濃度とも個体間変動が大である。高濃度順にCa、Na、K、P、Mg、Zn、Feとなり、数百から百ppmを示す。次がCu、Sr、Mn、Si、B、I、Cr、Seの順で10から1ppm前後と続く。Co、Mo、Ge、Liはいずれもppbレベルである。(2)環境汚染元素濃度:Al、Pb、Br、Niがppm、Hg、As、Cdは数百から百ppbレベルを示す。(3)性差:男女間での明らかな相違はなく、毛髪で観察されたような例は無い。(4)元素間の相関性:いずれの幼稚園、男女間で共に有意な正相関を示すのはAl-Li-V-Mn-Fe、およびNa-Kで認められる。(5)地域間変動:栄養元素と環境汚染元素の多くで中韓間、また中韓の10幼稚園の男女に共通して地域間に大きな相違が認められ、栄養摂取状況および環境汚染・暴露との関連が示唆される。【まとめ】爪や毛髪による栄養、環境汚染物質のモニタリングは生体に負荷の少ない非侵襲的方法として推奨される。本報告は調査研究例の少ないケイ素を含む28元素についてその実態を明らかにしたが、各元素とも個体差が大きく元素相互の関係や地域差を評価するためにはなお事例を重ねることが必要である。
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