研究概要 |
慢性肝疾患で肝硬変・癌合併予防のターゲットは炎症沈静化と線維化抑制であり、特に増加傾向のNASH(nonalcoholic steatohepatitis)は生活習慣病や酸化ストレス関連疾患として注目される。近年炎症収束に働く新規オメガ3系生理活性脂質が発見されたものの、肝炎や肝線維化での機構は未解明である。本年度の実験研究においては、アラキドン酸やEPA由来の各種生理活性脂質が肝線維化に関わるコラーゲン合成・分解の分子機構に及ぼす影響を検討するため、第1にHSC(肝星細胞)での観察を行った。ヒト株化HSC(LI90細胞)とラットより分離したHSCにおいてオメガ3系生理活性脂質であるレゾルビンD1,またはオメガ6系生理活性脂質のPGF2α,PGE2を添加培養し,培養液中のコラーゲン量の測定およびWound healing assayによる細胞遊走性の検討を行った。また第2にコリン欠乏一亜硝酸投与によるNASHモデルラットを作成し、EPAおよびコーン油食の肝線維化への影響を検討した。LI90細胞での各試薬添加により細胞障害性はみとめられなかった。細胞遊走性に関してRevD1と17R-HDoHEにコントロールと明らかな差が認められなかったが、PGF2αおよびPGE2においてはコントロールと比べて細胞の移動距離に短い傾向が認められ、遊走が抑制されている様子が観察された。しかしコラーゲンI分泌量では各試薬間で有意な差は見られなかった。現在、NASHモデルラットにおける肝線維化発現については解析中である。HSCでのPGF2αおよびPGE2にコントロールと比べて遊走性の抑制が見られたことから詳細な機構の解明を行うとともに、クッパー細胞等他の細胞での影響を検討する予定である。
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