骨に必要な栄養素としてはカルシウム・ビタミンDが代表的であるが、近年ビタミンK不足が骨折の危険因子であることが知られている。大腿骨近位部骨折患者では、対照群に比して、ビタミンK不足者の割合が高く、また実際に大腿骨近位部骨折を起こし、人工関節置換術を受けた患者の骨組織を検討したところ、ビタミンD・ビタミンK不足骨折患者では、骨梁の減少が著明であった。 ビタミンKの供給源としては食品特に納豆・緑色野菜が重要であるが、腸内細菌によっても産生される。しかしその相対的重要性は未だ明らかではない。今回重症心身障害(SMID)患者を対象とした調査を行った。SMID患者は骨折のリスクが高いが、従来ビタミンD欠乏については報告があるものの、ビタミンKに関しては報告が乏しかった。血清PIVKA-II、ucOCをそれぞれ肝臓・骨におけるビタミンK不足の指標として検討したところ、SMIDでは肝臓・骨のいずれでもビタミン不足者の頻度が高く、経腸栄養(経口よりビタミンK摂取が少ない)で管理され、かつ長期抗生物質服用者において特に頻度が高かった。通常腸内細菌によるビタミンK産生の寄与は大きくないと考えられているが、経口摂取の少ない例では意味を持ち得ることが示された。 成人ではビタミンK欠乏による出血傾向が起こることはないが、新生児では重要な問題である。その原因として、胎盤からの輸送が少ないこと、母乳中濃度が低いこと、腸内細菌が未発達であることなどが挙げられており、今回の結果はこの点を裏付けるものである。ビタミンKは肝臓より骨において必要量が大きく、不足になりやすいことから、骨折リスクの大きい高齢者などでも問題になるものと思われ、さらに詳細な検討を要する。
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