研究概要 |
本年度は,前年度に開発した二つの実験,〈1〉状態変化に伴う吸熱・発熱と,〈2〉化学反応に伴う吸熱・発熱を踏まえ,化学結合の切断・生成を伴う『状態変化と化学反応』のエネルギー変化に通底する微視的原理の理解のための演示実験を開発した。その上で,これら(演示)実験を用いたカリキュラム試案の構築を開始した。 1微視的視点でのエネルギー変換の演示実験 2個の鉄球(原子のモデル)間をバネまたはゴムで接続した分子モデルを用い,結合の切断・生成に伴うエネルギー変化を理解できる教材を開発した。まず,一方の鉄球にカセンサーを接続し,もう一方の鉄球には紐をつなげてその紐を手で引き,引いた力と引いた距離(回転センサー利用)との関係をコンピュータ上にグラフとして表示することで,このグラフの面積から原子間の結合伸長に必要な仕事を求めた。この仕事は,分子のポテンシャルエネルギー増加に相当する。これを,錘を鉛直方向に持ち上げる際の仕事に伴うポテンシャルエネルギー上昇を用いたアナロジーで理解させる教材とした。すなわち,引力が働いている粒子間の結合伸長・切断の仕事で化学エネルギー(=結合解離エネルギー)が増加することを演示する実験を開発した。 次に,化学結合の切断が吸熱過程であることを理解するためのシミュレーション動画を作成した。上述の鉄球製分子モデルに別の鉄球を衝突させた際のバネ又はゴムで模擬した化学結合の伸長と切断の様子を1秒間に60コマの撮影が可能な高速デジタルカメラで撮影することで化学結合の切断が吸熱過程(エネルギーを吸収する過程)であること演示した。発熱過程はこの動画の逆再生で説明できた。 2カリキュラム試案の構築 巨視的視点での実験(22年度)と微視的視点での実験(23年度)を用いて,化学反応を微視的視点から"観る"ことを促すカリキュラム試案の構築を開始した。この際,実際の化学反応の多くは,化学結合の切断(吸熱)と生成(発熱)が同時に起こっており,観測されているのは正味のエネルギー変化の結果であることの理解を重視した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画にしたがって,申請者が担当している授業等で前年度までに開発した教材やカリキュラムを実践し,もし問題点が見出されれば,前年度までに開発した教材等の見直しを具体的に行う。特に,学習者に「化学反応の多くは,化学結合の切断(吸熱)と生成(発熱)が同時に起っており,観測されているのは正味のエネルギー変換の結果である」という理解を促せているかどうかに評価の重点を置き研究を推進する。
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