研究概要 |
本研究の目的は,物理教育の改善をもたらすための物理教育・科学教育に対する科学的な研究の手法を開発・改良し,これに基づいてわが国の教育環境に適合する実施可能で効果的な教育手法や教材を,可能な限り客観的で定量的な裏付けを添えて開発し検証することにある。平成23年度は,主に以下の2点について研究を実施した。 (1)ピア・インストラクション方式による相互作用型授業の改善 高等学校物理I及び大学基礎物理学において,研究協力者とともにピア・インストラクションによる相互作用型授業の実践的開発を行った。2011年度は,e-learningの導入による個人学習の促進を行い,引き続きピア・インストラクションに適した設問の作成,ICTを活用した実験の併用,小テストとの組み合わせ等を試みた。また,議論をするグループ数を3,4,5人と変化させ,どの人数が最もPI効率が大きいかを調べたところ,4人グループが最も効果的であるとの結論を得た。さらに,ピア・インストラクションの教育効果を数学的に記述する理論を発展させ,実践結果を分析した。 (2)認知心理学の知見に基づく物理初学者の物理概念形成過程の研究 物理概念の獲得は,日常知をベースとした素朴概念が邪魔をして困難となることが知られている。しかし,その科学的分析は十分になされているとは言えない。物理教育をより改善していくためには,物理概念の獲得過程において初学者が抱える困難を詳細に分析し,それらへの適切な対応策を授業に取り入れない限り,効果的な教育方法や教材をより発展的に開発することは難しい。そこで,初学者への面接調査を行い,物理概念獲得における困難を詳細に分析した。また,知覚過程と素朴概念の関係に関する調査研究を並行して行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去2年間の間に,査読付き論文発表を2010年度に2編,2011年度に3編,合計5編を発表しており,本科研費による研究成果の公表は順調である。また,授業開発としてピア・インストラクション型授業の実践を,研究協力者とともに大学および高等学校で引き続き実施しており,PI効率やFCIに関するデータを順調に蓄積している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在行っているピア・インストラクション型授業をさらに改善するために,認知心理学の知見を取り入れる予定である。具体的には,先行オーガナイザーやメタ認知の促進過程を導入して改善を試みる。また,昨年度に引き続き,面接法等により初学者の物理概念獲得過程を詳細に分析し,より効果的な授業法や教材の開発につなげていく。さらに,簡易に実施できる評価テストとして有望な「基礎物理調査」の改善を,FCIとの相関の詳細な検討に基づいて試みる。
|