(1)標準質問紙の改善:本研究の一部として訳文を完成させた標準力学テストFCI(Force Concept Inventory)を実施した。一方,FCIの実施に30分以上を要することが問題点として挙げられており,より短時間で終了する標準テストの作成が望まれている。そこで本研究では,日本で開発された10分程度で終了する「物理基礎調査」に着目して継続実施し,FCIとの相関を調べてきた。しかしながら,FCIとの相関は代替として利用できるほどには強くなかった。そこで平成24年度は「物理基礎調査」の問題を一部修正して,FCIとの相関に変化があるかを調べたが,期待されるほどの相関の強まりは見られなかった。 (2)相互作用型授業の改善と評価法の開発:相互作用型授業の実践研究としてピア・インストラクションを基盤とした授業の実践研究を引き続き行った。特に平成24年度は,先行オーガナイザーとしての予習とメタ認知促進としての授業の振り返りを導入し,一層の授業改善と新たな評価基準の策定を試みた。その結果,振り返りの記述の充実度とFCIゲインとの間に相関が見出された。これはメタ認知を深めることにより物理学習の理解が促進されることを示唆している。 (3)初学者の物理概念把握に関する基礎研究:昨年度に引き続き,学生・生徒への面談等による初学者の物理概念の理解過程に関する基礎研究を行った。平成24年度は,高校生5名に対し個別指導を行なったときのプロトコル分析によって理解過程を調べた。個別指導の技術的部分では市川の開発した「認知カウンセリング」の手法を援用した。調査研究の結果,初学者の物理理解はほとんどが不完全な状態にあることが明らかとなった。なお,個別指導の効果を評価するために,コロラド大学の開発したCLASSを用いた。事前事後調査から,個別指導によって科学的な見方・考え方が向上することが明らかとなった。
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