研究課題
本論では,モデルがあるからこそ,有が生まれるという考えを志向し,そのモデルには大きく二つの役割があることを同定した.一つ目は,仮想空間としてのモデルの役割である.当面している問題や事象を,それが生じた世界の中で思考することが難しいとき,思考がしやすい別の世界における問題へと置き換え,別の世界の中で考えようとする.ここでいう「思考がしやすい」とは,人間の思考を促進するための要因が別の世界にはあるわけで,例えば,視覚的に見える形で操作をしながら考えられたり,馴染みのある世界でイメージを伴いながら考えられたり,曖昧であった行為や骨格となる構造が明確になってわかりやすくなったり,既に構築したシステムがあるが故に独立に処理して考えられたりする等の点があげられる.モデルは,思考を促進するために別の世界におきかえられた問題や事象を意味し,目的に応じて抽象化,具体化,翻訳という行為を通してモデルがつくられることになる.二つ目は,対比(参照)の対象としてのモデルの役割である.当面している問題や事象がどのように考えればよいかが不明確であるとき,それが生じた場面(世界A)と類似した馴染みのある別の場面(世界B)を見出し,別の場面(世界B)での要素間の構造を見本に,当面している問題を探究しようと考える.別の場面(世界B)は馴染みがある故に要素間の構造を熟知しており,場面(世界B)が類似しているが故に,対比することで他の部分も類似しているのではないかというアナロジー(類比)が働くわけである.モデルは,アナロジー(類比)を引き出すための見本となる要素間の構造(システム)を意味する.そして,モデルの二つの役割が,小学校算数,中学校数学,高等学校数学の内容において,具体的にどのような役割を果たすのかについて事例的に考察した.
25年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
日本数学教育学会誌
巻: 第95巻第5号 ページ: 2-12
Mathematical Modelling: Connecting to Practice ; Teaching practice and the practice of applied mathematicians(Springer)
巻: ICTMA15 ページ: 255-275