研究概要 |
本研究の目的は,学校の理科授業で敬遠されがちな生物の長期観察を支援する試みとして,遠隔制御型植物育成システム「アイテラリウム」を利用して,その教育的効果を検証しようとするものである。アイテラリウムは,インターネットを通じて,日照,温度,土壌水分含量などを自由に制御でき,かつウエブカメラを装備していることから,携帯電話等から遠隔操作で管理,画像の撮影,蓄積などが容易にでき,理科授業の新たな一手法として,その試みは価値が高いと考えられる。そこでまず理科の授業において,植物の長期観察に関する実験を検討するとともに,昆虫などの小動物の観察をも手軽に行うことができる理科実験プログラムを作成することとした。 平成22年度は,アイテラリウムを利用した植物に関する理科実験の検討として,ファストプランツを用いた植物の要素欠除試験に取り組んだ。大学における予備実験ののち,東京都内の高等学校において,N,P,K,Ca,Mg,Feなどを欠いた培養液を用いファストプランツを水耕栽培し,植物体にどのような症状が現れるのかを遠隔操作によって経時的に観察し,記録を取らせた。その結果,生徒は放課後や帰宅後の時間を利用して,自由に都合の良い時間に,高校の理科室に設置されたアイテラリウム内のファストプランツを観察し,ウエブカメラを操作することにより,完全区との比較を行い,欠除区の様子を画像として保存することができ,長期にわたる観察においても,大きな負担を感じることなく栽培,実験を行なうことが可能であった。また,大学構内で採卵したキアゲハをアイテラリウム内で飼育し,モンシロチョウに替わる長期飼育の生物教材としての可能性を検討した。キアゲハは,北海道では2化性であるが,孵化,蛹化,羽化率が高く,糞の処理も容易であることから,アイテラリウムを利用した長期観察には好都合であることが確認された。
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