「生命体(細胞)の保存の難しさ」および「タンパク質の一般的な性質と、それぞれの分子に固有の性質および機能があること」を理解させるための実験系の開発に取り組み、一部は後期の実験講義である「総合科学実験講座」においても実施した。 1.生命体の低温保存の困難さを体感できる実験教材の開発を目指して次の実験を行った。生体物質であるタンパク質や多糖類から成るゲルを生体モデルと見なし、それらの1辺2cmの立方体について凍結融解の実験を液体窒素を用いて行った。用いたのは食品のコンニャク、蒲鉾、ゼラチン、寒天である。これらは凍結時にひび割れ・変形することが常であり、これは含まれている水分の凍結時に体積が1割増えることが原因であると考察するためのよい証拠として用いられると思われた。 2.細胞モデルとしてイクラと、殻を溶解除去したウズラ卵を用いて、同様に凍結融解実験を試みた。その結果、20%グリセロール中に浸した状態であると、凍結融解後の様子が実験前の状態に近いことが示唆された。グリセロールに代えて培養細胞凍結時に汎用されるジメチルスルホキシドについても検討を試みたが、臭いの問題を解決する必要があるとわかり、検討課題として残された。 3.各種酵素の電気泳動後のザイモグラフィーについても検討した。ポリアクリルアミドのほかに、無毒のアガロースのゲルを用いて、アミラーゼの検出を試み、ほぼ変わらない分析結果を得た。試料としては薬局で購入可能なタカジアスターゼを含む消化剤が使いやすいこと、タカジアスターゼとヒトのアミラーゼは移動度が異なることから、分子構造が違うことを示せることがわかった。しかしアガロースゲルの場合には、色素によるタンパク質の検出結果が不鮮明で、この点も今後の検討課題であろうかと思われた。また、新しい電気泳動装置を廉価な材料で組み立てられるよう考案したが、完成前に年度末となった。
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